0.石に浮かび上がる大黒様

 以前、宮崎のとある温泉に入った時、露天風呂の幾つかの大きな石を見ていた。すると表面が平らな石に、うっすらと人の形らしき物が見え始めた。紛れもなく、大黒様の姿がくっきりと浮かび上がっているのである。

 すぐに温泉から上がり、女将さんにそのことを伝え、紙とペンを貸してもらい、その形をスケッチした。左を向き、ふっくらとした大黒様である。また、この大黒様をテーマにして創った詩も書き込み、女将さんに差し上げた。

 半年ほど経ち、新聞に大黒様が居られる温泉という記事が載る。もう一度その温泉に出向いた。玄関先には私の詩を参考にした大黒様を詠った詩が大きな看板に書かれている。「立派な物が出来ましたね」と女将さんに伝えるが、何故か感謝の言葉が返ってこない。

 温泉に入り、大黒様と久しぶりのご対面と思いきや、その姿が消えかかっている。毎日捧げていたと思われるお神酒もなく、花は枯れたまま。大黒様がどこかへ引越ししたのかもしれない。